プラザキサ という薬

 「非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制」に適応がある、新薬です。
 
 ワーファリン に変わる薬、とまで言われています。

 ワーファリンのように「納豆の摂取を禁止しなくてよい」 「効果判定のための血液検査を頻回やらなくてよい」から患者さんにとって有用であることを売りにしていますが、当院では、この新薬に対してはまだ「使いやすい薬」とは考えていません。

 この間担当MRさんより何度か話を聞いてきましたが、うまい話には裏がある、というのがこの業界の常識のはず・・・しかし他の病院の医師たちは、何の疑問もなく使いまくっている様子。そして添付文書とは異なる用法で処方していることが、当院への入院患者さんの持参薬チェック時に判明・・・。

 当院では基本薬剤師が うん といわなければ新薬の採用は出来ないので、以下に当院がプラザキサの採用に積極的になれない理由を挙げてみます。




1. 薬価が高い:
    これまでのワーファリンより約20倍高くなります。おそらく保険薬局へ行って支払い時に驚くと思います。


2.一包化できない:
    吸湿性が高いとのことで、PTPシートから出して、器械で他の薬と一緒に一包化できません。プラザキサ単独服用の患者さんは、まずいないと思います。


3.まだ2週間処方しか出来ない:
    新薬は発売後1年間は長期処方不可です(最大2週間まで)。他の定期服用の薬が4週間処方なのに、この薬のみ2週間処方しか出来ないのは、(1年間は)2週間ごとに受診する必要があります。


4.血液検査は不要にはならない:
    「ワーファリンのような効果判定のための検査は不要」と言っていますが、結局他の定期的な肝機能・腎機能チェックのための検査は定期的に必要(むしろやっていない方が不自然)なので、その時に合わせて採血するため、負担が減ることにはならない。またプラザキサはまだ未知の副作用などがある可能性があるので、定期的な肝機能・腎機能チェックが必須のはず。


5.相互作用に不明な点が多い:
    ワーファリンより少ない、と言っていましたが、ワーファリンはすでに何十年も使われてきた実績があるため、他の薬剤・食品とのいろいろな相互作用が明らかになっていて、公開されています(PDFでダウンロード可能、http://www.eisai.jp/medical/products/warfarin/proper-use/)。
 プラザキサは「P-糖タンパク」がらみの相互作用があると添付文書に記載されていますが、これがまだ曖昧な内容です。そもそもP-糖タンパクがらみの相互作用自体不明瞭な分野なので、今後どんどん対象薬剤が増えていく可能性が充分にあります(添付文書にはまだ記載がないが、一部のコレステロールを低下させる薬にも相互作用があることを、先週文献調査で発見しました)。


6.出血時の対応方法が不明瞭:
    もし薬が効きすぎた場合、ワーファリンは拮抗薬であるビタミンKを静注すれば、1時間以内にその効果を打ち消すことが出来ますが、プラザキサはそういった拮抗薬がありません。もともと効果判定のための血液検査による指標がないので、もし効きすぎて出血傾向となった場合は「服用中止→凍結血小板輸血→部位によっては外科的止血など」という、小さい病院ではすぐに対応できない処置が必要らしい。


7.規格が不親切:
 添付文書の規定では、高用量(通常量)は「75mg×4カプセル(300mg/日)」、腎機能低下時などの低用量は「110mg×2カプセル(220mg/日)」と2パターンしかありませんので、どちらかを選択すればよいから見た目はラクそうですが、高用量(通常量)時が「75mgカプセル」と規格の小さい方、低用量時が「110mgカプセル」と規格の大きい方を処方しなければならず、医師にとってはややこしい。


8.アメリカの添付文書と比較:(http://dailymed.nlm.nih.gov/dailymed/drugInfo.cfm?id=40084
    日本の添付文書は「ワーファリンからプラザキサへ切り替える」やり方のみ書いてありますが、アメリカの添付文書には、「ワーファリンからプラザキサへ切り替える」やり方も書いてあります。もしプラザキサがその患者さんにあわなくて(副作用や出血傾向など)他の薬剤へ切り替える必要があったら、当然ワーファリンにしなくてはならないのですが、なぜ、日本の添付文書には書いていないのか???
 ワーファリンは単純にライバル会社だから、日本でのシェアを取るために、日本の添付文書には意図的に記載しなかったのかどうかが気になる所です。
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 ・・・と、まあ、以上のような理由で、当院では発売後1年を経過するまでは、積極的に処方することはないと思います。
 ちなみに当院では、ワーファリン服用中の患者さんは、毎月(定期受診時)PT-INRを他の血液検査とあわせて実施しており、入院・外来とも「3.0」を超えたら臨床検査科から薬剤部へ直接連絡が入るシステムになっているので、そういった時は、薬歴と過去の検査データを薬剤師がチェックし、主治医に処方設計の内容を連絡するようになっています。
 結局当院ではワーファリンの調節で医師が困る、ということがほとんどないため、これもプラザキサは使ってはみたいけど積極的にはならない理由のひとつかも。

 ワーファリン服用中は食べてはいけない納豆も、岐阜エリアのかたはもともと食べない人が多く(消費量は全国平均より下、http://todo-ran.com/t/kiji/11483)、実際入院患者さんに服薬指導の時も、「別に食っとらんでええわ」という方が8割ぐらい。
 薬剤部の教科書的には「納豆 禁止」の服薬指導は必ずやることとして書いてあったのに、いざ病院薬剤師として仕事し始めたらあまりにも少なくて、拍子抜けしてました。


 と、いうわけで、適応病名と照らし合わせて、本当に必要な患者さんには積極的に使用すべきと思いますが、この2ヶ月間で日本国内での死亡症例が数例報告されていることも踏まえ、追加で上がってくる新たな副作用情報・相互作用の情報をしっかり収集しながら判断すべきと考えます。

この記事へのコメント

まったりかめ
2013年11月06日 20:33
初めまして。プラザキサを飲んで3か月ほどしてから、肝障害(GPT、GOT)の上昇が止まりません。メーカーも主治医もプラザキサにはこんな副作用はない(あったとしても非常に希)、と言っています。プラザキサについては、あまり詳しい医師がいなくて困っています。エリキュースに変えるべきでしょうか。ワーファリンは食べ物の制限が多く、断っています。
Mozzy
2013年11月11日 02:41
初めまして、まったりかめさん。

 そもそも薬が化学物質である以上「こんな副作用はない」と言い切ることはできません。日本全国たくさんの患者さんに投与して、初めて判明する有害事象=副作用はいっぱいあります。
 おそらくメーカーさんも稀な症例であればこそ情報収集に来たがるはずですが、もし主治医が「関係ないんじゃない」と言う立場であれば、メーカーとしてはそれ以上いろいろ教えてください、と言いづらいため、肝障害の事例として報告が上がってこないだけなのだと思います。

 薬剤師の立場からは、ワーファリンの食べ物制限を強く指導するのは「納豆・クロレラ・青汁」、この3つだけです。
「納豆」:食べたあとも、しばらく納豆菌がワーファリンを無効にしてしまうビタミンKを作り続けるため、避けるべき
「クロレラ」:健康食品のため、葉緑素≒ビタミンKが濃縮されているため絶対ダメ
「青汁」:メーカーによってビタミンKの含まれている量がまちまちなため、避けた方がよい
となります。それ以外のパセリや海藻、ブロッコリーなどはすべて「100g単位」でのビタミンK含有量として表示されているにすぎないため、そんなに一度に食べない限り問題ない、と私は指導しています。

 個人的にはワーファリンは昔からある薬のため、新しく世の中に出てきた薬よりかはいろいろな情報(副作用や食べ合わせ、薬の飲み合わせ)が豊富であり、結局比較的安心して使える薬と考えています。

 もしどうしても、どうしても納豆を食べたいのであれば、必ず毎日同じ銘柄の納豆を食べながら検査データをチェックして、ワーファリンの投与量を決めればよいと思います(実際にそうしている患者さんも担当しています)。

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